山﨑達枝 災害看護と私 Disaster Nursing

東日本大震災被災地病院の看護職不足(「ナーシング・トゥデイ」寄稿)

はじめに

「ナーシング・トゥデイ」 2013年8月号(日本看護協会出版会)に寄稿した原稿が、厚意により転載許可をいただけましたので、以下に掲載いたします。

東日本大震災被災地病院の看護職不足―病院看護管理者の訴え

東日本大震災から2年が経過した。被災地の看護職はどのような状況で勤務しているのだろうか、病院看護管理者の声と震災後の被災地域内の看護職者のストレス反応に関するアンケート調査結果から、その一端をお伝えする。

「休みなんて取れない」

私は、東日本大震災(以下、震災とする)の被災地であるA県看護協会B支部地区に、災害看護研修「看護管理職者へのこころのケア」講師としてうかがった。

私は生意気にも講演の最後に、「多くの職員・患者とその家族を守り、厳しい現実に直面しながらも瞬時に判断・指示をしなければならない辛い立場であったこと、そしてその後も前を向いて職員を導いてきた、ご自分自身にどうぞねぎらいの言葉をかけ、1日も早くお休みをとり御自身の時間を大切にして下さい」と語った。

すると、「休みなんて取れません」、「看護師が足りないのです、補充もありません」などといった現場の看護管理者から厳しい声が上がった。

地元B市のホームページには、「震災以前の1990年から2010年の20年間で、人口が4分の3に激減しています。この間に高齢化率は2倍に急増し、2010年には市の人口は3.9万人その3分の1以上が65歳以上でした。高齢化率は34.7%に達していました。震災後はさらに人口は減少し高齢化率は増してきています。若い人々の流出も続きました。」と紹介されていた。

中小民間病院の場合

看護師不足の問題に話を移そう。

私は宮城・岩手県沿岸の病院に勤務する複数の看護管理者に震災後の看護職員数の現状とその対策について尋ねてみた。

「うちの病院では看護師不足はありません」という看護部長の病院は、附属として看護専門学校を持ち、学生は卒業後、自施設の病院に勤務することになっている。奨学金を利用する看護学生にかける費用は年間1千万円ほどだという。

国公立病院や赤十字病院では、公務員であるという魅力やブランドなどで4月の時点では看護師不足はないとの回答であった。(赤十字病院は公務員に準ずる給与体系)

では、全国に関連病院を持たない200床前後の中小民間病院の場合はどうだろうか。

ここで紹介する病院は、B市内の一般病棟・療養病棟合わせて154床を持つ地域密着型の病院である。

震災発生直後は一時的に退職者は少なくはなかった。しかし、津波の被害により入院患者も少なくなり、決して余裕のある人員配置ではなったが、欠員までには至らなかった。

3年目を迎えた今も余裕のある状況ではないが、協力し合い院内悉皆研修も行っている。しかし、院外研修にはなかなか全員を参加させることはできず、そのことが職員のモチベーションの低下につながるのではと管理職は危惧している。

高齢化率も高いこの地域では当然のことながら白内障の手術適応者も多い。

「被災地域の皆様にお役に立ちたい」という北陸I県眼科教授の申し出を受け、お互いに勤務に支障のない範囲でと、看護師長をはじめ看護管理者が輪番制で手術介助のために日曜出勤している。職員も地域に貢献する病院という認識が強く、厳しい状況ではあるが明るく前向きに高齢者に向きあい看護に専念している。

「震災後に若い看護師や子育て中の看護師は町から離れていく傾向にあるのも事実です。看護師の平均年齢も高くなっています。正直なところ体調を崩し長期休暇を取る人が出たり、インフルエンザの流行の時には精神的にもつらいです」と総看護師長は語る。

続けて「就職を希望しても、震災のため住む土地もなく、アパートや寮がありません。通勤には車が必要ですが、ガソリン代などの支払いなどを考えると地域外からの入職は厳しい。今は、就職希望者からの勤務希望を全面的に受け入れています」と言う。

疲弊と闘いながら

表1.2は、震災後の被災地域内の看護職者のストレス反応に関するアンケート調査の結果の一部である。

上位6位までは若干の順位の差はあるが、看護職の人数が少なく、体力的にも精神的にもつらい状況に置かれていることがわかる結果となっている。被災地の看護職は疲弊と闘いながら勤務を続けているといえるだろう。

看護職不足は被災地に限らず全国の問題である。しかし被災地では看護師も家族や友人、家を失い仮設住宅や借り上げ住宅などの狭い環境の中で生活している。

看護職にはきり離せない夜勤だが、仮設や借り上げの住宅では狭く自宅で仮眠すらできないというゆとりのない中で勤務を続けていることを理解して頂きたい。

よりよい看護ケアの提供を行うためにも、一人でも多くの看護職者が、1時間・1日でも多く休みを取るためにはどうしたらよいか、全国の皆さんとともに考えていきたい。全国の皆さまからの御意見くをお聞かせ願いたい。

表1
表2

本論文で紹介した一部の調査結果は、平成22年~25年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(A)「東アジアにおける惨事ストレスに関する総合的研究」研究代表者:松井豊)による助成を得て行われた。

日本看護協会出版会「ナーシング・トゥデイ」 2013年8月号(Vol.28,No4)に寄稿
http://www.jnapc.co.jp/products/detail.php?product_id=3176

(2013年7月掲載)
Copyright© Tatsue YAMAZAKI